「家族葬の普及で葬儀の単価が下がってしまった……」
「葬儀仲介サイトに中抜きされるから忙しいだけで薄利だ……」
「顧客からお金の面で過剰に警戒されている……」
葬儀会社で働いている方なら、きっと一度は思ったことがある愚痴ではないでしょうか。私も僧侶としてお葬式の現場に身を置くものの1人です。現場で汗して働いている葬儀社の社員さんが、やりきれない思いを抱えていることを知っています。
そこでこの記事では、次の一手を模索する葬儀関係者の皆様に「寺院葬」を提案します。寺院葬は、単に寺院を葬儀の会場として利用する「場所」だけにとどまる話ではありません。葬儀社が不毛な価格競争から抜け出し、本物の付加価値を持つ葬儀を提供するための「挑戦」です。
私は僧侶として20年間に渡り、1000件以上のお葬式の導師を勤めてきました。また、20年前から現在まで、お葬式の執り行い方の変化とその背景をずっと見てきました。そのような経験を踏まえ、現役僧侶の視点から以下について解説します。
- 葬儀社にとっての寺院葬のメリット
- 葬儀後のサービスでの売上拡大が肝
- 寺院葬は三方良し
葬儀の満足度を高めつつ、自社に利益を残すための参考になるはずです。ぜひ最後までお読みください!
寺院葬とは
「寺院葬」とは、お寺の本堂を会場として執り行うお葬式のことです。
かつての日本のお葬式は、自宅もしくは近所のお寺を会場として執り行うのが一般的なかたちでした。隣組や親戚の人たちが仕事を休んでさまざまな役割を担い、とても大変だったと聞いています。
しかしながら、住環境の変化や地域のつながりの衰退から葬儀ホールを利用してのお葬式が普及し、今では葬儀ホールでのお葬式が一般的なスタイルとなっています。
その結果として、広大な駐車場を所有する有名寺院を除いて、寺院葬は大きく減少しました。しかし近年、家族葬の普及や価値観の多様化によって寺院葬の見直しが起きています。
近年の寺院葬の特徴としては、対象となる顧客をいわゆる檀家に限定せず、広く一般顧客に解放している点があげられます。というのも、お寺としても寺院葬をきっかけにして、多くの方々に足を運んでいただきたいとの願いがあるからです。
これからの寺院葬は、以前の大変だった形式に戻るわけではありません。実務や雑務は葬儀社のスタッフがホールと同様にサポートし、お寺の荘厳な空間を会場として利用する「アップデートされた寺院葬」にしていくことがポイントとなります。
葬儀社にとっての寺院葬のメリット
葬儀社が寺院葬に取り組んでいくことのメリットを3点紹介します。
- 初期投資を抑えられる
- 利益を中抜きされない
- 荘厳な建物で付加価値の高い葬儀を提供できる
初期投資を抑えられる
寺院葬では、お寺の本堂やホールを借りるため、自社でホールを建設する必要がありません。初期投資として土地代や建設費を捻出することは、会社にとっては大きな負担となります。家族葬比率の高まりによって葬儀単価が下がっている昨今において、投資額の回収は簡単ではありません。
寺院葬であれば会場使用料を寺院に対して支払うことにはなりますが、大きな元手を用意する必要がなく、リスクを最小限に抑えて営業できます。
利益を中抜きされない
近年は葬儀仲介サイト経由の案件が増加していますが、多くの葬儀社が高額な仲介手数料に悩まされています。しかしながら顧客と直接つながることができる寺院葬でしたら仲介手数料も発生せず、受注した案件の利益を100%自社に残す体制を構築できます。
葬儀社としては、仲介サイトに利益を中抜きされることは当然面白くありませんし大きな負担です。そしてそのストレスが現場スタッフの士気にも影響を与えることがあります。
私が勤めるお寺の近所に、自社の互助会会員の顧客と仲介サイト経由の顧客に対してのサービスを、細かく変えている葬儀社があります。例えば互助会会員の顧客には儀式用の立派なカミソリを使い、仲介サイト経由の顧客には百均で売っているカミソリを使うといった具合です。
社長からの指示とのことですが、現場のスタッフは「うちの社長せこいっすよね」と陰口を言っていましたし、いちいち細かくサービスを変えるのが面倒くさいと不満タラタラでした。
社長の気持ちもわかりますし、現場のスタッフの気持ちもわかるので苦笑いするしかありませんでしたが……。顧客と直接つながる手立てを確立できれば中抜きもされず、このようなストレスに悩まされることもなくなります。寺院葬はそのための一つの選択肢です。
荘厳な建物で付加価値の高い葬儀を提供できる
寺院を会場とする寺院葬では、葬儀ホールでのお葬式とは一線を画した、付加価値の高い荘厳なお葬式を提供できます。葬儀ホールでのお荘厳、特に安価な家族葬プランで執り行うケースでは、どこの葬儀社も似たり寄ったりになってしまいます。
生花をたくさん飾って見栄えを良くすることもできますが、追加料金が必要になりますし、プランの範疇でとなると、他社との差別化は難しいのが現実です。
しかしながら寺院葬では葬儀ホールとは全く別次元のお荘厳で、葬儀を執り行うことができます。床や柱・欄間の色合いには、歴史を経てきたからこその深みがありますし、本堂の内陣は極楽浄土を視覚的に表現したものです。
何より本堂の中心には、長年にわたって大切に守られてきたご本尊が安置されています。重厚感のあるお荘厳の中で、ご本尊に手を合わせることを通して故人様と向き合っていくお葬式の意義。本物ならではの重みをその空間から感じてもらえることにより、顧客満足度は大きく向上することでしょう。
形容詞の「荘厳(そうごん)な」と名詞の「お荘厳(しょうごん)」との意味の違いを説明します。一般的な日本語で「荘厳(そうごん)な」という場合、厳かで圧倒されると感じる主観的な印象を表します。それに対して仏教で「お荘厳(しょうごん)」と名詞で使う際は、お浄土を具現化した、思わず手が合わさるその場のお飾り(仏具としつらえの様子)を表します。
寺院葬後のサービスで売上を拡大できる
顧客満足度の高い葬儀式から得られる、葬儀当日の利益も寺院葬のメリットではあります。しかしながら葬儀後のアフターサービス受注にこそ、寺院葬を推進する醍醐味が隠れています。
- 安価なのに格式のある寺院葬で顧客満足度アップ
- 顧客との強固なつながりがアフターサービス受注につながる
- 葬儀後のつながりが利益を生み続けた実際のケース
安価なのに格式のある寺院葬で顧客満足度アップ
寺院葬は、葬儀費用の割に厳かな空間での付加価値の高い葬儀式を執り行えるため、顧客満足度のとても高いサービスです。
ただし、「葬儀費用の割に」と記したように、葬儀代金そのものから大きな利益を得ることはできません。一般的な葬儀の収益拡大ポイントは「大きな祭壇の契約を結ぶ」、「高額なオプション契約を多く結ぶ」の2点でしょう。
そもそも大きな祭壇の契約を結ぶことは寺院葬においては望めません。というのも、本堂のお荘厳が祭壇の役割をはたすため、「本堂使用料いくら」というかたちで一律に定めることが多いからです。
また、顧客が住職に相談しやすい環境にあることから、オプション契約にも冷静に対処できることと思われます。ゆえに、高額なオプション契約を多く結ぶことによる利益の拡大も難しくなるでしょう。したがって葬儀代金そのものから大きな利益をあげることは、システム的に難しいのが寺院葬です。
ただ、初期投資に大金を投入しているわけでもありませんし、仲介会社に高額な紹介料を支払うわけでもありませんから、それなりの利益は会社に残ります。
顧客目線で考えますと、比較的安価にもかかわらず、立派な本堂を利用して厳かなお葬式を勤めることができたわけですから、満足感は跳ね上がります。この満足感からくる葬儀社への信頼が、その後のアフターサービスビジネスにおいての強固な土台となる点がポイントです。
顧客とのつながりがアフターサービス受注につながる
寺院葬に対しての満足感からくる葬儀会社への信頼は、その後のアフターサービス受注の営業現場で大きな力を発揮します。
葬儀後にサポートを要する課題には、以下に示す通り、多くの分野が考えられます。
- 香典返し・返礼品サポート
- お仏壇の購入
- お墓(納骨堂)の購入
- 遺品整理
- 年忌法要の仕出し弁当
- 身元保証・死後事務委任
- 相続関連サポート
- 不動産・空き家対策
- 故人のご家族の終活
- ペット終活
葬儀後の喪主は、上記の分野のさまざまな事業者からポスティング営業などでアプローチを受けます。そのような中でも、顧客からの信頼を獲得している葬儀社は、他社を2歩も3歩もリードしている状況です。
お困りごとの相談先として、優先的に選ばれる可能性が高いでしょうし、信頼している葬儀社のアドバイスには顧客もきっと耳を傾けてくれることでしょう。
また、上記のさまざまな課題について、お寺の住職も檀家さんから相談を受けることが多いです。その際も顧客が葬儀社を信頼していたら、住職としても自然なかたちで葬儀社の営業を後押しできます。
葬儀社とお寺が協力して顧客をサポートし続けることで、お葬式代からは大きな利益を得ていなくとも、会社としてトータルで見たら大きな利益を得ている状況を目指します。顧客との強固な信頼関係は、アフターサービス受注の時にこそ効いてくるのです。
葬儀後のつながりが利益を生み続けた実際のケース
数年前、大変お世話になった総代さんがお亡くなりになりました。本堂の修復事業の際にリーダーシップをとってくださったお方で、総代さんのおかげで修復が完了したと言っても過言ではありません。
修復が完了してからの奉告法要の際、総代さんは「わしの葬式はこの本堂で」とおっしゃられ、ご家族にもその希望を伝えていらっしゃいました。私が勤めるお寺では普段から寺院葬をしているわけではないのですが、お世話になった総代さんの遺言ですから、寺院葬をお受けすることにしました。
喪主様に葬儀社の会員になっているかを確認しましたところ、どこの会員にもなっていないとのこと。親切な葬儀社を紹介してほしいと頼まれましたので、懇意にしている葬儀社のAくんに連絡を入れて依頼しました。実はAくんは私と中学校の同級生。お互い気安く融通しあえる間柄なのです。
Aくんは上司にかけあってくれて、ふつうに葬儀ホールで執り行うよりも、ずっとお値打ちに取り計らってくれました。ご遺族の皆様は、故人の思い入れのある本堂で厳かなお葬式を執り行えましたし、Aくんの対応も良く、何よりとても安価にしてもらったのでとても満足されていました。
ご遺族の信頼を獲得したAくんは、葬儀後の諸々のサポートを任されました。返礼品のサポートから始まり、お仏壇のこと、お墓のこと、法要後の食事の手配までをAくんに相談し、Aくんの会社が全て受注しました。
さらに、総代さんの奥さんがもしもの時にはAくんにお願いしたいとご指名が入っているとのこと。総代さんの寺院葬自体の利益は大きなものではありませんでしたが、結果的には会社に大きな利益をもたらすお葬式となったのです。
お寺にとっての寺院葬のメリット
葬儀社が寺院葬を提案することは、お寺側にとっても非常に魅力的な話です。
- お寺と檀家さんとの距離を縮められる
- 「会場使用料」としての収入が見込める
檀家さんとの距離を縮められる
お寺側にとって、寺院葬は檀家さんとの距離を縮められる魅力的なお葬式のかたちです。お寺はかつて「供養の場」であると同時に、「教育」「福祉」「相談」「交流」など地域のインフラとして機能していました。それが時代の流れとともに、お寺の役割は「供養」に特化されていきました。
さらに近年は供養に対する意識の低下によって、お寺の存在意義すら怪しくなっているのが現実です。このような状況にお寺側は強烈な危機感を抱いています。
寺院葬のありがたいポイントは、自然にお寺と檀家さんとの距離を縮めてくれることです。普段お寺に足を運ぶ機会のない世代に、お荘厳のすばらしさや、住職の人柄を知ってもらう機会は滅多にありません。寺院葬は、お寺と檀家さん、あるいは地域の住民とのつながりを結び直す絶好の機会となります。
我々お寺の人間は、檀家さんや地域の方々と密な関係を築きたいと願っています。その意味で、寺院葬はお寺側にとっても魅力的です。
「会場使用料」としての収入が見込める
お寺の本堂を貸し出せば「会場使用料」としての収入が見込まれ、これはお寺にとってのメリットです。お寺を維持管理するための財源は、一昔前までは檀家さんからの寄付金でした。お寺が地域で大事に思われていた時代には、寄付を依頼すればなんとかしていただけたのです。
しかしながら、そのようなありがたい状況は過去のこと。今の時代に寄付金を依頼しようものなら「それなら檀家を抜けさせてもらう」と縁を切られてしまうこともあります。うちのお寺でも修復のために数年前に寄付を依頼した際には、片手で収まらない数の檀家さんとご縁が切れてしまいました。
寺院葬が定着すれば、お寺には定期的な会場使用料が入ることになります。貯めておけば、いざという時に檀家さんからの寄付に頼らずとも修復が叶うかもしれません。
お寺の住職は、お寺を永代にわたって存続させていくことを使命であると考えています。その助けとなる会場使用料が見込める寺院葬は、お寺にとって歓迎すべきお葬式のスタイルなのです。
顧客にとっての寺院葬のメリット
顧客にとっての寺院葬のメリットを紹介します。葬儀社がこの点を意識することで、寺院葬の普及を一気に加速させられます。
- 住職が葬儀社との間に入ってくれる安心感
- 費用が比較的安価
住職が葬儀社との間に入ってくれる安心感
お葬式に慣れている人はいません。自分が喪主となってお葬式を執り行うにあたって、なんでも相談できる住職が側にいてくれることは、大きな安心感につながります。
葬儀社に不明瞭な請求をされたことに対する不満を耳にすることは、私も少なからずあります。近年は、葬儀サービスに対して、国民生活センターに毎年1000件近くの相談が寄せられていることからも、顧客が警戒するのも無理の無いことかもしれません。(墓・葬儀サービス(各種相談の件数や傾向)_国民生活センター.)
そのような現実がある中でも、普段から信頼している住職が介在し、間違いのない葬儀社だと紹介されることで、顧客の警戒感は一気に解消されます。また、葬儀にはさまざまなオプションがつきものです。そのオプションの必要性の有無も一般の方には判断しかねることと思います。
そのような時に、その地域のお葬式に精通している住職にすぐ相談できる環境は、とても心強いことでしょう。安心感の中で、慣れないお葬式の打ち合わせを進めていけること。これは顧客にとってとてつもなく大きなメリットです。
オプションの1つである「エンバーミング」について、以下の記事で詳しく解説しています。ぜひあわせてお読みください。
費用が比較的安価
高額な祭壇を組む必要がなく、過剰なオプションを心配せずにすむ寺院葬は、葬儀ホールでのお葬式と比べて安価になるケースがほとんどです。どれだけ立派なお葬式を勤めることができても、想定の斜め上を行く請求が来たら、満足感は一気にしぼんでしまいます。
安心してリーズナブルな費用でお葬式を執り行えること。この点も顧客にとって、寺院葬の大きなメリットと言えるでしょう。
まとめ
葬儀からの得られる利益には、わかりやすく見える「葬儀代」と、裏に隠れた「アフターサービスからの収益」があります。後者のアフターサービスからの収益を、取りこぼすことなく獲得する流れを作りやすいのが「寺院葬」です。
具体的には顧客満足度を高めていくことから得られる信用を土台として、アフターサービスでの売上拡大を目指します。初期費用を抑えつつ、仲介料無しで得られる「葬儀代」と、「アフターサービスからの収益」との両輪により、大きな利益が期待できる点がポイントです。
また、寺院葬は葬儀社だけでなく、お寺と顧客にとってもさまざまなメリットがあります。この三方良しのシステムであるが故に、継続的に利益を産み続けられるのです。
家族葬の普及や仲介サイトの台頭による葬儀の低価格化はもはや止めることができません。貴社も不毛な価格競争から一歩抜け出し、葬儀社・お寺・顧客とみんなが笑顔になれる葬儀ビジネスに挑戦してみませんか?

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