「お葬式のオプションって色々あるけれど正直わからない。どれが本当に必要なの?」
「葬儀屋さんにエンバーミングを勧められたけれど、依頼した方がいいのかな?」
「エンバーミングっていくらくらい費用がかかるのだろう。」
こんな悩みを抱えていませんか?
近年のお葬式で、顕著に増加しているサービスのひとつがエンバーミングです。直近30年でエンバーミングの処置件数はなんと10倍に増えています。エンバーミングとは、ご遺体の血液を専用の防腐液と入れ替え、消毒・防腐・修復を行う技術のこと。
エンバーミングを行うことで、いつも見ていたお姿の故人と、すぐ近くでふれあいながらお別れできるのが最大のポイントです。
エンバーミングによって得られる「心の安らぎ」や「しっかりとお別れができたという実感」は、何物にも代えがたいものです。お別れの場に立ち会う僧侶として、エンバーミングは検討に値するすばらしいサービスであると感じています。
私は1000件以上のお葬式で導師を勤めてきました。その後の法要などでお参りに伺う際には、ご遺族からお葬式についての後悔やお困りごとなど、さまざまな本音を聞く機会があります。
そうして20年にわたって見てきた葬儀の現場の実情を踏まえて、この記事では以下について解説します。
- そもそもエンバーミングとは何なのか
- 処置が必要かの判断基準
- 費用の考え方
ご自身にとってエンバーミングが必要なのか、判断する助けになるはずです。ぜひ最後までお読みください!
エンバーミングとは
「エンバーミング」について、ほとんど知らない人も多いかと思います。そこで、エンバーミングの概要を説明します。
- エンバーミングの概要
- エンバーミングの費用
- エンバーミングの処置件数は増加傾向
エンバーミングの概要
エンバーミング(遺体衛生保全)とは、特殊技術によってご遺体の腐敗を防止し、衛生的に保全するための専門的な処置です。ご遺体の消毒・殺菌を行い、血液を防腐剤に入れ替えることで腐敗を防止できるため、最長で50日程度までドライアイスなしで常温保全が可能となります。
その結果、感染症リスクを抑えながら、生前のような穏やかな顔色やお姿のご遺体と、ゆっくりお別れの時間を過ごすことができます。
またエンバーミングによって、事故や闘病による外傷・痩せなどを、いつもの見慣れた故人のお姿に修復が可能です。血色も良く、眠っているかのような自然な姿に戻ることによって、安心して対面でき、最後のひと時を穏やかな気持ちで過ごすことができます。
エンバーミングは、エンバーミングの専用施設で、エンバーマーと呼ばれる専門資格を持つ技術者によって処置されます。ご遺体の状態にもよりますが、処置時間はおおよそ3〜4時間です。
エンバーミングの費用
日本でエンバーミングを実施する場合、基本料金は日本遺体衛生保全協会(IFSA)によって定められています。費用は15万円〜25万円ほどです。ご遺体の状態にもよりますが、どの葬儀社でも同程度の費用がかかります。
なお、この金額には施設への搬送代が含まれていることが一般的ですが、遠方の場合には追加料金が発生する可能性もあります
エンバーミングの処置件数は増加傾向
日本でのエンバーミングの処置件数は年々増加しており、1996年から2025年までのおよそ30年で約10倍になっています。
| 当該年 | 処置件数 |
|---|---|
| 1996年 | 8,415件 |
| 2010年 | 21,310件 |
| 2020年 | 53,041件 |
| 2025年 | 88,531件 |
また、国立社会保障・人口問題研究所の将来推計によると、2040年頃が日本人の死亡者数のピークになります。このことから、2040年ごろまでは葬儀件数が増えていくのはほぼ確実な状況です。
しかしながら火葬場の増加、特に都市部での増加は見込めないことから、「火葬場の空き待ち」は、より一層の長期化が予想されます。それに伴い、エンバーミング需要は増えていくと考えられており、今後もほぼ確実にエンバーミングの処置件数は増えていくことでしょう。
エンバーミングが必要とされる4つのケース
エンバーミングが必要とされる4つのケースについて解説します。
- 海外からご遺体を搬送する
- 火葬まで1週間以上かかる
- 衛生面への配慮が求められる
- 外見が大きく変化している
海外からご遺体を搬送する
海外でお亡くなりになり、ご遺体を搬送する場合には、「検討するべき」というよりも、エンバーミングの処置は「必須」です。というのも、ご遺体の国際搬送にあたり、多くの国や航空会社がエンバーミング証明書の提出を求めているからです。
国境を越えてご遺体を搬送する際は、感染症の拡散を防ぐことが最優先されます。そのため、搬送に関わる人や受け入れる側の安全が確保されるように、殺菌・防腐処理が施されるエンバーミングは必須なのです。
火葬まで1週間以上かかる
死亡から火葬までの日数が1週間以上かかる場合はエンバーミングを検討することをおすすめします。エンバーミングをすることで、ご遺体の腐敗の進行を防止することができ、常温での長期安置が可能になります。
近年は様々な事情で、死亡から火葬までに時間を要するケースが増えてきました。例えば、以下のようなケースです。
- 火葬場の予約が取れない
- 親族が帰国するまでお葬式を遅らせる
- 海外からご遺体を搬送する
このような時には、最大で50日間ほどの安置が可能になるエンバーミングの処置は、ご遺体の安置に大いに役立ちます。
また、日数がかかるケースでは、費用面でもエンバーミングはおすすめです。死亡から火葬までの日程が長くなるケースでは通常、霊安室の使用料やドライアイス代が、日数分必要になります。
それに対して、エンバーミング処置以降は常温でご遺体を安置できますので、日数による追加料金は基本的にかかりません。その差額とエンバーミングのメリットを考えると、火葬までに1週間以上かかる際は、エンバーミングを検討しましょう。
衛生面への配慮が求められる
故人が感染症で亡くなった場合も、エンバーミングをおすすめします。エンバーミングでは、専門技術者(エンバーマー)が殺菌処理を行い、ご遺体からの感染リスクを低下させるため、ご遺族はご遺体に安心して触れることができます。
感染症の不安がある場合には、ご遺体の近くにいることができません。最後の数日間、ご遺体と引き離されることは想像以上に辛いことです。
故人と距離を取ることなく、傍らに寄り添い、故人の手を取りながら、時には故人の頬を撫でながら「今までありがとう」と言える。エンバーミングによって最後の数日間がとても豊かな時間になります。
「大事な方とちゃんとお別れができた」という実感は、ご遺族のグリーフワークの観点からとても大きなことです。衛生面での配慮が求められる感染症でお亡くなりになった際も、エンバーミングはおすすめです。
外見が大きく変化している
病気でひどく痩せてしまったり、事故による怪我のせいで外見が大きく変わってしまったケースでは、強くエンバーミングをおすすめします。
エンバーミングをすると、外傷や瘦身を修復し、血色も良く、まるで眠っているかのような自然な姿に戻すことができます。このことは、単なる「見た目の回復」以上の意味を持ちます。
何より大きいのが、ご遺族の心理的な負担を大きく和らげてくれることです。具体的には、記憶に残る最後のお姿が、「見るのも辛いお姿」から「その人らしいいつものお姿」へと回復し、納得感を持ってお別れをすることができます。
お葬式に携わっていて思うことですが、ご遺体のお姿が直視できないような状態の時は、対面された方の思いが「今までありがとう」にならないんです。どうしても「かわいそう」という思いが先に来てしまう。そしてその思いに、かなり引きずられているように感じます。
大切な方とのお別れは、悲しく受け入れがたいものです。ただ、どこかのタイミングで、「今までありがとう。あなたと一緒にいれて本当に良かった」という思いが「別れの悲しみ」を越えてきてほしいといつも思っています。
それを阻む壁は複数ありますが、その中の一つの大きな壁がお別れの際の「外見の大きな変化」です。そしてその大きな壁を突破できる、魔法のような技術がエンバーミング。
外見が大きく変わってしまった際は、「見た目の回復」以上の価値を持ちますので、エンバーミングを積極的に検討していただければと思います。
エンバーミングが不要な3つのケース
次に、エンバーミングが不要な3つのケースについて解説します。
- 金銭的余裕がない
- ご遺体の状態に不安がない
- ご遺体にメスを入れたくない
金銭的余裕がない
金銭的余裕がないケースでは、無理してエンバーミング処置をしなくても良いでしょう。予定している葬儀プランにオプションとしてエンバーミングを追加すると、およそ20万円ほど費用がかかります。
それに対して、代表的な死後処置である「湯灌(ゆかん)」の費用は5万円〜10万円ほど。また、温かいタオルなどで体を拭く「清拭(せいしき)」を行うエンゼルケアの場合は5千円ほどからと安価です。これらと比較すると、エンバーミングの費用はかなり高額であることがわかります。
葬儀には死後処置以外にもさまざまな費用が発生します。また、葬儀の後にも思いもよらない出費がかさむことがあります。金銭的余裕がない場合は、エンバーミング代が重くのしかかることになりますので、おすすめできません。
ご遺体の状態に不安がない
ご遺体の状態に不安がない場合は、エンバーミング処置をするメリットは薄れます。事故や病気によって、外見に大きな変化が生じておらず、死亡から火葬までの日数が5日以内ならば、エンバーミングは必要ないと思われます。
エンバーミングは、ご遺体の腐敗の進行を食い止め、感染症を防止できます。その結果として、ご遺族がご遺体の近くで安心して最後の時間を過ごせるのが、なによりのメリットです。
季節や霊安室の性能にもよりますが、死亡から火葬までが5日以内で収まるのであれば、ご遺体の腐敗や感染症の心配もあまりないでしょう。ご遺体の状態に不安がなければ、エンバーミングは必要ないのかなと思います。
ご遺体にメスを入れたくない
エンバーミングではご遺体の切開が必要になります。自然なかたちでのお別れを望まれ、ご遺体にメスを入れたくないとお考えの方は、あえてエンバーミングをする必要はないでしょう。
エンバーミングでは、体内の血液を専用の防腐液に置き換える処置を行います。その際には、ご遺体の一部を1〜1.5cmほど切開し、そこから血液等を排出した後に、エンバーミング保全液を注入します。
傷口がわからないように最大限の配慮はなされますが、それでも「自然のまま見送りたい」とお考えのご遺族にとっては、辛いことかもしれません。そのようなお考えの方は無理をすることはないでしょう。
エンバーミングは気持ちを整理する助けになる
私はエンバーミングの本当のメリットは機能面ではなく、情緒面であると思っています。大切な方とのお別れを、本当の意味で受け入れていくのは、なまやさしいことではありません。
大切な方とのお別れという大きな悲しみから立ち直るまでには、プロセスがあります。
1.ショック期
亡くなった人を思い起こし、愛しい・恋しい想いに占有される「思慕と空虚」
2.喪失期
人と違ってしまったような気後れ感覚に代表される「疎外感」
3.閉じこもり期
何もやる気がしないうつにそっくりな「うつ的不調」
4.再生期
自分を奮い立たせようとする「適応・対処の努力」
(日本グリーフケア協会HP)
このプロセスは直線的なものではなく、回復と後退を繰り返しながら、再生期に至るというのが一般的なプロセスです。
お亡くなりになってからお葬式をつとめている間は、「ショック期」にあたります。さまざまな思いが頭の中を駆け巡り、パニックの状態です。
通常、ご遺体が葬儀会館に搬送されてから葬儀式までは、ご遺体の状態を維持するために、専用の冷蔵庫や霊安室で安置されます。ご遺族は常に面会できるわけではなく、事前の予約が必要であったり、面会時間が決まっている施設が多いです。
つまり、基本的にご遺族と故人は離れ離れになるわけです。離れ離れになりながら、ご遺族はどうすることもできず、悲嘆に暮れながら数日間を過ごすことになります。
それに対してエンバーミング処置をしたご遺体は、1週間でも2週間でも常温で安置可能です。したがって、ご自宅に一緒に帰宅し、常に近くで過ごすことが可能になります。この期間に故人に真剣に向き合い、お別れを現実のこととして受け止め、感謝の思いを告げる。
この大切な期間が「喪失期」と「閉じこもり期」での回復を強力に後押しし、「再生期」へと至る大きな助けとなるのです。この大切な期間を生むのがエンバーミング処置です。
日本での死者は、2040年までは増加していくと見込まれています。それに伴い都市部を中心に火葬場待ちの期間が長くなり、死亡から火葬までの期間も長くなることが間違いない状況です。
これからは今までよりもなお一層、「悲しみを受け入れていくための大切な期間」を生むエンバーミングが必要になってくることでしょう。
エンバーミングによって費用が安くなることもある
エンバーミングの費用は、たしかに他の死後処置と比較すると高額です。ただし、エンバーミングを選択しなかった場合に負担することになる費用もあります。その兼ね合いを考えると、単純に「エンバーミングをすると高額になる」とは言い切れない状況もあります。
たとえば、地域や葬儀社によって料金体系は異なりますが、霊安室使用料とその間のドライアイス代は、1日あたりおよそ2万円ほどです。ということは、仮に6日間葬儀社でご遺体を安置したら、2万円×6日=12万円の費用がかかります。
さらに湯灌を依頼したら、およそ8万円ほどの費用がかかります。つまり、6日間、葬儀社でご遺体を安置して、湯灌をしたら12万円+8万円で20万円ほどかかってしまうのです。
「エンバーミングをする」ケースと、「葬儀社の霊安室を使用し、ドライアイスでご遺体を冷やし」て、「湯灌をする」ケースとを、表にして費用を比較してみます。霊安室使用料とドライアイス代を負担する日数をAは4日間、Bは6日間、Cは8日間とします。
地域や葬儀社によって料金は様々ですので、それぞれのサービスの代金を以下のように仮定しました。
- エンバーミング代:20万円
- 一日あたりの霊安室使用料:1万5千円
- 一日あたりのドライアイス代:5千円
- 湯灌代金:8万円
| エンバーミング | A(4日間) | B(6日間) | C(8日間) | |
|---|---|---|---|---|
| エンバーミング代 | 20万円 | 0 | 0 | 0 |
| 霊安室使用料 | 0 | 6万円 | 9万円 | 12万円 |
| ドライアイス代 | 0 | 2万円 | 3万円 | 4万円 |
| 湯灌の代金 | 0 | 8万円 | 8万円 | 8万円 |
| 総額 | 20万円 | 16万円 | 20万円 | 24万円 |
安置日数が増えるほどに総額が上昇し、一定のラインを越えると、エンバーミング処置をしてご自宅に安置するケースを越えてしまいます。腐敗や感染症の防止といった様々なメリットを考えると、額面の金額だけで、エンバーミングを選択肢から消してしまうのは早計な判断かもしれません。
なお、上記の表は細かな契約内容は考慮に入れず、ごくごくシンプルに考察した結果です。実際の葬儀社のプランでは、霊安室使用料やドライアイスの使用料も数日分はパックに含まれていることも多いです。
そこで、以下の事柄を調べた上で、エンバーミングは費用面で検討に値するかを考えてみると良いでしょう。
- 1日あたりの霊安室使用料やドライアイス代
- 契約プランに含まれる霊安室使用料やドライアイス代の日数
- 自分の地域での死亡から火葬までにかかる平均日数
エンバーミングの流れと具体的処置
ここからは、エンバーミングの流れと具体的な処置について説明します。エンバーミングの大まかな流れは以下のとおりです。
- 必要書類の提出
- ご遺体の搬送
- ご遺体の消毒・衛生保全
- 血液と防腐液の入れ替え
- ご遺体の保湿
- 外見の整容
1.必要書類の提出
エンバーミングを依頼することを決めたら、エンバーミング依頼書と死亡診断書を、依頼を代行する葬儀社へ提出します。この際に故人の生前のお写真を一緒に提出することで、生前のお姿を再現しやすくなります。
2.ご遺体の搬送
エンバーミング処置が行われるのは、葬儀会館やご自宅ではなく、全国各地にあるエンバーミング専用の施設です。ご遺体を専用の施設まで搬送し、エンバーマーによって処置がなされます。
3.ご遺体の消毒・衛生保全
最初にご遺体の状態を確認してから全身を洗浄し、身体の表面を消毒液で丁寧に拭きとります。さらに洗顔や洗髪をして、開いた目を閉じるなどして表情を整えていきます。
4.血液と防腐液の入れ替え
続いて体内の血液と専用の防腐液を入れ換える処置を行います。この処置によって、ご遺体の腐敗を遅らせることができ、衛生的に保つことができます。
具体的には、ご遺体の一部を1cm〜1.5cmほど切開し、そこから血液や体液、老廃物を排出すると同時に、動脈から全身にエンバーミング保全液を注入します。処置の最後に切開した箇所を縫合して、必要があれば破損した部分の修復も行います。
5.ご遺体の保湿
肌や顔、手足などの皮膚が乾燥して硬くならないように保湿を行います。保湿クリームや専用の液剤を使い、自然で穏やかな表情を保ちやすくします。
6.外見の整容
最後に外見を整えます。故人愛用の衣服を着用させて、目の閉じ方や唇の閉じ方を調整し、必要に応じてメイクを施します。
これらの処置を終えた後、ご自宅や葬儀会館といったご遺体の安置場所まで搬送されます。
エンバーミングのおかげでお葬式が感謝に満ちた事例
エンバーミングについて忘れられない思い出があります。
コロナ期間中に、私の幼なじみであるAさんのお母さんのお葬式を執り行わさせていただきました。お母さんは膵臓癌を患い、激しい闘病のすえにお亡くなりになりました。
枕経(お亡くなりになって最初のお参り)のために入室した時は異様な雰囲気でした。もちろん枕経に伺う際は、どのご家庭もしんみりと悲しみに包まれているのですが、あの時はとにかく異様な雰囲気を感じたのです。しばらくしてその理由がわかりました。
故人のお顔を見せていただく際に、Aさんのお父さんが一言「骨と皮だけやからびっくりせんといてな」。私は心の準備をして、お顔の上にかけられている白い布をのけました。
そうしたら……絶句です。壮絶な痩せ方をされていて、同時に闘病の激しさ、お母さんの苦しみがお姿から伝わり、かわいそうでかわいそうで……本当に辛かったです。
ふだん東京に住んでいるAさんの弟さんは、コロナ中ということもありお母さんのお見舞いにもいけませんでした。そして久々に対面したお母さんのガリガリに痩せたお姿に、本当にショックを受けていました。
私の住んでいる地域は火葬場が特別混み合っていることもなく、遅くても死後4日目には火葬できるエリアです。ですからエンバーミングもあまり普及しておらず、Aさんもお父さんもエンバーミングのことは知りませんでした。
ただ、東京に住んでいる弟さんはエンバーミングのことを知っていて、葬儀屋さんに依頼したいとのこと。私もぜひそうしてあげたいと思い、Aさんとお父さんにエンバーミングについて詳しく説明しました。その結果、エンバーミングを依頼することになりました。
その2日後。お通夜のため葬儀会館に開式40分ほど前に行きましたら、お父さんがニコッとしながら「うちのやつ見たって」と言いにきてくださいました。
私も気になっていましたので、どうなったかなとホールまで見に行ったら、昔から見慣れたいつものお母さんの姿でした!しっかりとメイクもされて柩の中で眠っていました。お父さんが「うちの嫁さんべっぴんやろ!」とちょっと自慢げに私に言ってきます。私も「べっぴんさんですね」とにっこり答えました。
その後のお通夜・葬儀は、枕経に伺った時とは全く異なる雰囲気で進められました。もちろんお別れの悲しみはみんな持っています。ただ、お母さんのためにできることをしてあげられたという納得感に包まれていました。
「本当にかわいそうなお母さん」では終わらず、「今まで本当にお世話になりました。ありがとう。」の気持ちをたくさん届けることができたお葬式でした。そんなお葬式になったのは、間違いなくエンバーミングの下支えがあったからだと思います。
お葬式の後も、四十九日法要、初盆、1周忌、3回忌と法要を勤めさせていただきました。みなさん色んな思いを持ってはいます。思い出話の中で涙を流されることもあります。でも真剣にお別れを受け止め、家族で支え合いながら一歩一歩、前向きな歩みを進めていらっしゃいます。
エンバーミングをしなかったらどんなお葬式になっていたかはわかりません。ただ、エンバーミングをして、そこからの空気の変化を見る限り、Aさんご家族にとって、エンバーミングは必要不可欠なことであったなと感じました。

まとめ
エンバーミングが、社会のルール上で絶対に必要なのは「海外からご遺体を搬送する」ケースのみです。
ただこれからの多死社会では、今以上に死亡から火葬までに時間を要するようになります。そうなると、腐敗を防止することができるエンバーミングは、今以上に必要とされることでしょう。
エンバーミングには機能面のメリットと情緒面のメリットがあります。エンバーミングの機能面でのメリットは素晴らしく、葬儀の現場でとても喜ばれることと思います。ただそれ以上に情緒面でのメリット、グリーフワークにおけるメリットについて私は訴えたいです。
最後のひと時を、「直視できないお姿」ではなく「いつものお姿」のご遺体の側で過ごせること。また、感染の心配をすることなく、最後の数日間を安心して共に過ごせること。これらのことは、お別れを受け入れていく上で想像以上に大きなメリットです。
お葬式を執り行うのは数日間です。しかしながら、大切な方とのお別れを受け入れていく心の営みは、一般的に数年間から一生に及びます。その間、ずっと自分を励まし支え続けてくれる最後の数日間の重み。
エンバーミングを依頼するか悩んでいる方は、この数日間を生むエンバーミングの意義に目を向け、価値を考えていただけたらと思います。

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